仕事について(その8)

ついに、常駐現場への移動の話がやってきた。

五千平米のオフィスビルで日勤で2名勤務という。

長かった。これでやっと世間一般でいう楽なビルメンになることが出来ると思った。

しかし、事前に聞かされた話だと、設備面で厄介なところはないが、責任者が怖い人であるとのこと。

「ああ、やっぱり」

だいたい、ビルメンで現場の異動というと賃金や人間関係の悪さで退社する人がいてそれで空きが発生するというパターンが多い。

ちょっと気が重くなったが、うまくやっていくしかない。

翌日、上司に連れられて現場に行った。

作業服の着替えなども持って行ったので、荷物が多かった。

責任者は50代前半の人だった。当時の私は30代半ば。

上司はさっさと消えてしまい、責任者と向き合う。

これまでの経歴などを自己紹介する。

別に怖い感じはしない。大丈夫なのか、キレると怖いタイプなのか。

館内を巡回し、一通り説明される。

ルーチン業務の流れも説明があった。

特に難しいことはない。しかし、静かな現場である。

巡回の詰め所は頻繁に電話がかかってきたり、操作卓からよく警報が鳴ったり、客先や上司から案件の進捗などの問い合わせもありざわざわしていたことを考えると本当に静かだ。

このころはLED照明などなかったので、蛍光灯の交換依頼の電話が一日1,2件かかってくるくらいだった。

見るだけの点検、巡回とたまの蛍光灯交換以外は、お茶を飲んで、責任者と世間話をするだけで、これこそ世間一般で言われるビルメンの仕事だった。

「こりゃ、楽だ」

巡回現場と常駐現場で同じ給料でこれはないだろう。地下室で流れるゆったりとした時。

「幸せ」

そう思った。