仕事について(その14)

異動先の現場は、繁華街のはずれにある七千平米程度のオフィスビルだった。

何が案の定かと言えば、ここも人が続かないビルだった。オーナー担当者の癖が強く、設備員が3年持たないという。

そんな異動先しか残っていないよなあと思いつつ、現場に向かう。

一名勤務の一人現場なのが幸い。

退社予定の設備員と対面。話好きの50代後半くらいの人だった。

ただ、引継ぎの話をしない。世間話ばかりだった。

ようやく館内を一通り巡回してくれたが、それでおしまい。

築30年の純然たるオフィスビルだし、設備面では大したことはないだろうから、自分で調べるしかない。

それで毎日世間話ばかりして、引継ぎ期間は終了した。

すると問題のオーナー担当者が現れた。

ここのオーナーは自社ビル管理を行っており、物件によってはこのビルのように他社に管理の仕事を投げたりもしている。

担当者は管理歴40年の人間で管理の仕事の進め方にある種のこだわりがあるように見受けられた。

で、良く吠える。

なるほど、これは人が続かないわけだ。

他から聞いた話では、社内一番の古株で他の社員も手が付けられないようで、これも原因の一つだった。

テナントは別に普通で、広告代理店や設計事務所、IT系企業など入っており、テナントは特に問題はなかった。

ただ、築30年であり、設備トラブルは結構多いが、まあ、業者に投げるだけなので、苦ではない。

癖の強いオーナーをうまく流すことが最重要課題であった。

繁華街の外れとはいえ、周りは飲み屋ばかり。そのため、週明けに出勤すると、ビルに向かってゲロが吐かれていることが多かった。

清掃員はこの時間だとテナント内清掃に忙しく対応できないので、こちらで水を流して処理してあげていた。

清掃員曰く、斜め向かいにワインバーが出来てからひどくなったとのこと。

ワインって悪酔いしますよね。私も悪酔いするのでワインは苦手。

また、隣にボロイビルがあるが、ここの地下のレストランは有名らしいとのこと。

グルメに興味がないが、そうなんだそうだ。

それよりもビル管理の仕事を始めてから外食が苦手になった。

営業時間終了後の、深夜、だれもいない飲食店に入ることも多く、汚い厨房をたくさん見てきた。

当然、ネズミもゴキブリもいる。本当に古いビルだと、飲み水の水槽と汚水の水槽が隣り合って地下に埋まっており、下手をすると漏れているのではないかと思わせるケースも見てきた。

少なくともマンホールが隣り合っており、汚水が溢れたら、飲み水の水槽に行くのだろうなというケースも見た。

古いビルでも手が行き届いているビルもあるが、本当に何も維持管理されていないビルもあって、飲食店での食事をためらうようになった。

話を戻す。

このビルの勤務は他のビルと異なる点が一つあって、電気や水道の検針を行ったのち、請求書の出力まで現場で行うのだ。

この作業自体は一番初めに勤務した管理会社で巡回点検を行ったが、そこでもそうだった。

ただ、このビルの請求書の出力のシステムが扱いにくく、ビルコンの請求書の出力からCSVで、データを取り出し、パソコンに移し、無駄なものを取り除いてからパソコン側のシートに添付して、請求書を出す必要が有るのが手間だった。

きちんとしたシステムを作れと。

手間なのはそれくらいであとはウザい担当者をかわせば、一人現場なので楽であった。

駐車場は外部貸しをしているが、繁華街ということもあり、止まっている車は堅気の人は乗らないだろうなという車ばかりだった。

飲食店経営者かスーパーホストなのかなという感じに見える。

こちらに彼らが絡んでくることは全くなかったが、見た目はどう見ても堅気ではなかった。

駐車場の管理そのものは外部の会社に投げているので困ることもない。

話を聞いたところ、箱スカが止まっているが、大金をかけてスクラッチしたもののようだ。

チューンしたAMGもいるが、申し訳ないけど下品に見える。かと思えば、いかにも銀行の営業車だよなあという感じの白色の軽自動車も有ったり社会の縮図だった。

ビルメンは異動する人は良く異動するし、しない人は全く異動しない職種だが、私は多いほうだと思う。

このビルも3年が経過した。

異常者オーナーのもと3年続いたのは私だけだそうだ。

そして、また異動の話が入る。